スペイン旅行記 29日目。 旅の終わり 破
4月29日 破
順調な空の旅。
でも外の条件によって、時々機体が揺れたりすると、臆病な私は、墜落する想像をしてしまう。
それによってパニックになったりする事はないのだが、ああいうとき、もう身動きは取れないので、
なすがままという状態に非常に恐怖を覚える。
フライト中にアルコールを摂るのは、その恐怖と戦うためといっても過言ではないかもしれない。
さて、「吊り橋効果」という現象をご存知だろうか。
恐怖心からくるドキドキが恋愛によるそれと勘違いをしてしまうというやつだ。
ドーハから日本の関空へ向かう空路の途中、私は何回もそれを経験してしまっていた。
通路を挟んだ向こうに、ドーハの空港で出会った女子がいる。
彼女の年齢は私と10歳差らしい。
席を立って、戻ると、ドーハ空港と書かれた紙が私の座席の前にある網掛けに刺さっていた。
当然、ドーハ空港とだけ書かれているわけではない。
ドーハ空港と印刷された用紙に、彼女のものらしいメールアドレスが書かれてあった。
その用紙を左手に持ち、今何が起きているのか、冷静になる為に、ビールを一口だけ飲む。
アルコールを摂取する理由は、普段はその真逆にあるものだとは思うが、この時ばかりは、
そのベクトルが違っていたようだ。
不可逆という言葉の通り、事は進んでいく。
時間という概念がある限り、決して過去へ戻る事はないし、タイムマシンが作られたとしても、
それは腕にはめるのが一番格好がつくだろうと思われるし、ましてや両手になんか絶対につけない。
確かに時差があるから、日本と、あとその国用に合わせているのだろうけれど、その確認が及ぼす影響はどれくらいあるのだろうか?
精神的に落ち着く、くらいのレベルなのだろうか。
いまいちわからない。
そして、今の状況である。
通路を挟んで、左手の方向へ顔を向ける。
こういう体験をしたことのない私が、こんなときはどういう顔をすればいいのか、と思ったのは束の間。
顔を向けた先にはさらに左手の方向に顔を向けた彼女の頭が目に飛び込んできた。
どう見ても、彼女は寝ているらしかった。
逆に私は、寝る事が出来ずに困った。
とりあえず、添乗員さんにビールを追加してもらって、この気持ちの昂りを抑えることにした。
しかし、ますます気持ちが良くなっていく。
知っていただろうか。
気圧が低い場所というのは、気圧が高いところに比べて、分子の活動が活発になる。
水は沸点が低くなり、沸騰しやすくなるし、運動をすると、呼吸が乱れる。
つまりはそんな感じで、端から見ると、何こいつ鼻息荒くしやがって、大丈夫かよ、というような状況に陥ったわけである。
いろんなことが頭の中を駆け巡っている私は、どこからどう見ても大丈夫ではなかった。
添乗員さんもビールを持ってきてくれなくなった頃、ようやく瞼が降りた。